審査委員講評

  審査委員長 塚本由晴(アトリエ・ワン/東京工業大学大学院准教授)

 

入選案には、個が社会や共同体から孤絶する疎外感が共有されていたと思う。だからこそ個と個の間をつなぐ提案が生まれる。しかし従来の個の境界を保存して問題の本質に迫ることはできない。個の固い境界が自然と崩れる組み立て方はないものか?そのためには個の総和=全体という計量モデルから脱すればいいことを森田案は教えてくれる。数人の家の記憶からはじめて、「どこが誰の」ではなくなる融合が建築化されていた。窓や段差など閾の丁寧な居場所化から始める古川案は、それらが繋がって生成されるはずの全体を、集合住宅の配置類型から借りてはいけなかった。同じ課題に毎年向き合うことで、こうした気づきを積み上げて行きたい。

 

  審査委員 千葉 学(千葉学建築計画事務所/東京大学大学院教授)

 

ベーシックという古くて新しいテーマに対し、今年も興味深い作品が数多く集まった。髙村案は、巨大な建具を開閉し、近隣住宅との豊かな関係を促そうとする住宅だ。プライバシーに過敏な従来の住宅とは対極の、融通無碍に姿を変えて街の触媒となる様は、「つながり」が大きなテーマとなる今後の住宅のモデルにもなりそうだ。また平井案は、敷地境界を走る塀を都市のインフラと見立て、そこに熱負荷の低減や雨水利用などの装置を仕込むものである。住宅そのものの提案については物足りなさが残ったが、エネルギーを介した今後の住宅地の「つながり」として印象深い作品だった。

 

  審査委員 小野田泰明(東北大学大学院教授)

 

緒方・山本・稲垣案は被災を免れた阪神長田の町屋にデッキを張り巡らしたシンプルな仕立てで、全体の関係性を大きく変えようという意欲的な提案だ。長手方向を街路に面させ、そこに薄くパブリックな機能を盛り込んだ瀬野案は、家型を見せた思い切ったプレゼンが目を引いた。多くの作品の中で埋もれない明確な意思が読み取れた。しかし、前者では浴室・寝室など隠したい部分の処理、後者は大きな南面開口の環境といった、弱点が等閑視されているために、次に進めなかった。実はこうした弱点こそ、建築的アイデアによって掛け替えのない長所に化けうる箇所なのであり、ベーシックになるかどうかはそこにかかっている。今後に期待したい。

 

  審査委員 西沢立衛(西沢立衛建築設計事務所/横浜国立大学大学院Y-GSA教授)

 

一等として僕は森田案を推した。建築が記憶を保存する点に着目して、時間を越える建築のあり方、個人的な記憶の建築化、集団記憶の空間化を模索した。その問題提起部分に共感した。高橋案は、周囲に手を広げて行くような家で、その開放感に共感した。富永・藤間案は、新しいベーシックというより、木造屋上畑に取り付かれた逆噴射建築家の生き様を感じさせる家で、二次選考案の中でもっとも痛快なものだった。髙村案は、家具のような軽快さだったが、大屋根の大架構がないほうがよかったように思った。

 

  審査委員 玉木康裕(タマホーム株式会社代表取締役会長兼 社長)

 

この度は弊社デザインコンペティションにご参加いただき、誠にありがとうございました。コンペティションの開催は今回で2度目となりますが、前回同様多数の応募、そしてより質の高い創造性溢れる作品が集まり、興味深いものとなりました。また、若い応募者の躍進には感銘を受けるとともに、建築業界の将来に大きな期待を抱くことができました。最優秀賞の森田さんをはじめ、受賞された皆様におかれましては、将来を担う建築家として今後もご活躍されることを期待しております。前回に引き続き審査員の先生方には熱心かつ厳正な審査をしていただき心よりお礼申し上げます。弊社でも住宅会社として「新しいベーシック」を追求し、皆様の住まいづくりに貢献できるよう努めて参ります。