CRITICISM―審査講評

審査委員長

西沢 立衛建築家/横浜国立大学大学院建築都市スクールY-GSA 教授

  • 西沢 立衛
  • すごく楽しい審査会でした。「終わらない」というテーマをそれぞれが独自に解釈してくれて甲乙つけにくかった。
    今回は形より関係性、結果よりプロセス、が大事なのかなと感じています。関係性は、庭や境界や遊びなど、各作品が全く異なっていて、広がりが面白かった。多様なものになったなと思います。「終わらない」というものをテーマにした時に、庭や境界はとても重要な要素だと思うのですが、単に外をどうするかという話だけになると、考え方が狭まってしまうように思います。中と外を一度つなげて考えるといいと思います。居心地のいい場所は中だけでもまた外だけでもない。両方揃っていいと感じるもの。それが今回の大きなテーマの一つになっていて、庭のデザインだけで終わらないように今後展開してほしいと思います。

審査委員

今井 公太郎東京大学生産技術研究所 教授

  • 今井 公太郎
  • 感染症や戦争といった苦境の中で、多くの提案を頂けたことに大変感謝しております。今年は、終わらない家という、サスティナビリティについての考え方を問う普遍的なテーマでした。しかし、期せずして、最終審査では全ての案で、住宅どうしの隙間、すなわち住宅のインターフェースのデザインによって答えようとする案が選ばれました。街が意味あるものとして続くためには、変化するに違いない個々の住宅どうしの関係性に工夫が必要だからではないかと思われます。最優秀案はこのことに個別の設計者が継続的なかけあいによって活動しつづけることで街がサスティナブルに変化し続けるような幸福な理想状態を想定していました。空想的に思えるそうした設計者同士の関係性には、私は懐疑的にならざるを得ないのですが、人を信じる心が裏切られがちな社会に対しての問題提起として評価できると思います。その他の提案は、様々な建築的な道具立てにより、新たな空間の関係性を構築して応えようとしましたが、結局、ハードではなく設計者同士のソフトな関係性に置き換えることが提案として一番ロバストだったのかもしれません。
    年々提案のレベルがあがり、模型も見ごたえがある力作ぞろいで、なかなか難しい審査でした。今回、参加してくださった皆様の将来に期待しております。

原田 真宏芝浦工業大学 教授

  • 原田 真宏
  • 経済や情報、物流やコミュニティが、あらゆるボーダーを超えて地球規模でつながっていて、また未来へ向けて多様な変化を受け入れつつ持続可能な世界を目指そうとしている現在、空間的・時間的な「終わり(完結性)」や、それを前提とした前世紀的な考え方が、どうにも都合が悪くなっていることは、社会の共有認識となりつつあるようです。
    空間や時間の境界の操作である建築が、これに応えていくことは必然で、どのようなビジョンが示されるか楽しみにしていました。
    最優秀となった「掛け合い」は、通常のミニ開発が一事業者の意図に即して一時に整備されるという特性から、画一的で内に閉じた世界を形成してしまいがちなことを問題視して、建築家を複数計画に参加させ、デザイン的に「掛け合う」関係を設計プロセスに仕組むことで、自然発生的な集落のような、応答しつつ連関する多様性を生み出すことに成功しています。さらにそれは将来的に敷地外に伝播していく持続的なプロセスの種となり得るもので、空間や時間の終わりを越えるという課題に正面から向き合った提案として評価しました。
    入選にとどまった「隙間にて」は、「食」や「匂い」、それを運ぶ「風」という、そもそも領域内で完結しない現象をテーマとした作品で、それ自体も面白いものでしたが、建築作品が暗黙のうちに了解している問題限定という境界を意識している点に興味を持ちました。解答とは問題が解放系の場合には成立せず、それが閉鎖系となっている場合にのみ得られるものです。適切な問題解決としての合理性は建築の作品性の根幹の一つですが、それは前提的に問題の境界範囲を狭く絞ってしまっており、そのこと自体が問題なのではないかという、建築の作品性への批評を含んだ態度に魅力を感じました。
    複数の作品は建築の根幹に迫るというか、それを揺らがすリスキーな領域への侵入を試みるもので、印象深く覚えています。試みの継続を期待したいと思います。

中川 エリカ中川エリカ建築設計事務所

  • 中川 エリカ
  • 今年は、コロナ禍において初めてプレゼンターとは会場をともにすることができ、密度の高い模型と合わせて、大変有意義な2次審査会となった。一方、500を超える応募作品から2次審査に進んだ提案はどれも力作で甲乙つけがたく、審査する側の立ち位置・考え方によって結果がガラリと変わってしまうような難しさがあった。
    最優秀賞「かけあい マチ」は、まさに2次審査会の難しさを象徴するような提案で、「終わらない」というテーマから発案された、永遠に未完成であるような広がりある全体像を目指そうとする姿勢に評価が集まる一方、現時点で目の前にあるモノにどう評価を与えるのか、ということが議論の的となった。4人の集団設計によって、ひとつのルールには回収されないような厚みがもっと設計に反映されることをぜひ期待したい。優秀賞「垣根が肥える島」は、もはや垣根という一言では語りきれない多様な空間が目の前に提示されており、現時点でとても良くできた設計で、簡単には数えられないようなまとまり方にも魅力を感じたが、ではこの価値をどう言葉にできるのか?という一点が少しだけ足りなかった。建築というモノを、いかに共有可能な存在にジャンプさせるのかという、設計とは異なる創造の難しさを感じた。

野村 壮一郎戸建分譲設計本部 設計一部 部長

  • 野村 壮一郎
  • 今年度の「終わらない家」というテーマに対し、永続的な時間性を示したデザインや敷地という定められた空間を飛び越えたデザイン、また「未完」という独特の解釈のもとにプログラムしたデザイン等々、例年以上にカラフルな提案が多くありました。また今回の課題となった敷地は私自身が実際に8邸の分譲住宅として世に送り出した流山おおたかの森のとある事業地をモデルとしていたため、自身の「現実的な」事業としてのデザインと学生の皆さんの柔らかい発想のデザインとで、どの程度の乖離が見られるのか大変興味深く審査にあたりました。
    そして公開審査会にて最優秀に輝いた【かけあいマチ】も、惜しくも優秀賞となった【垣根が肥える島】も、いずれも「敷地境界」に着目した提案でした。かけあいマチは境界に対する建築の依存性を否定することでコーポラティブに似たデザインプロセスを示していました。一方、垣根が肥える島は本来「線」でしかない境界を立体として再定義して新しい空間を構成していました。審査なので平面図と模型とのギャップ等で優劣は付けざるを得ませんでしたが、いずれの提案も既存の事業にはない新しい発想に満ちていて大変刺激を受けました。ありがとうございました。
    この社会不安定な時期にも関わらず意欲的に応募して頂いた全ての学生さんたちに感謝申し上げます。次回は記念すべき第10回となります。また多くの応募をお待ちしています。

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