CRITICISM―審査講評

審査委員長

西沢 立衛建築家/横浜国立大学大学院建築都市スクールY-GSA 教授

  • 西沢 立衛
  • 応募数が多く、審査は簡単ではなかったが、力のある案が多く集まる充実した会だった。

    その中で最優秀となった黒澤・木嶋案に、私はもっとも注目した。木工所を中心に置く提案で、自分の居場所を自分で考え創造してゆくといういわば当たり前のことを建築モデルとして提示した。

    優秀賞のチョウ・シリン案は、その唯物論的世界観が印象的であり、他案とは一線を画す独創性を感じた。作品としての彫刻的造形性も飛び抜けていた。

    入選・松村案は、骨太な構造体で構造をつくり、そこに軽い間仕切りが入ってくるというもので、民家的な力強さと開放感、また立体的な面白さがあって、私は高く評価した。

    入選・平野案は、平面と断面がほぼ同じであるような立体性が評価された。建築としてもう少し透明感があるとなおよかった。

    入選・西村・小原案は、八十年代の建築言語を使いながら、きわめて普通で自然、快適な建築空間を作った。

    入選・谷米案は、方形屋根の集合が作り出す景観にインパクトがあったが、マスタープランへの無意識は残念だった。

審査委員

今井 公太郎東京大学生産技術研究所 教授

  • 今井 公太郎
  • 今年のテーマは、いまの快適を問うものでした。快適性の希求は、建築の普遍的な課題のひとつであり、中でも最重要なものです。学生の皆さんの提案のレベルは高く、現代的な「快適性」を新たに提案しようと、多彩な提案が数多く集まりました。

    今年最優秀に選ばれた案は、自分自身の生活を自由にデザインし、そのような理想的な生活スタイルを目指す人々が共に暮らすことができる場の提案でした。それは生活スタイルを他者から与えられることの不快への抵抗感の表現であり、そのような夢への共感が最優秀に繋がりました。

    優秀案は対照的に、造形美に優れた構築が特徴で、その建築的な力強さが評価されました。

    最優秀の案は造形に頼らない提案であり、社会への波及力を目指す提案でした。建築的な造形と社会への波及力は必ずしも矛盾しません。それらに優劣はなく両立されるべき要因だと私は思います。

    ポラスのコンペも今年で10年目を迎えました。これまでのよく考えられた課題と学生の皆さんから寄せられた多数の提案の蓄積により、このコンペは非常に価値あるものに成長したと思います。次回もレベルの高い提案を期待しています。

原田 真宏芝浦工業大学 教授

  • 原田 真宏
  • 今回のテーマは「いま、わたしたちにとって快適な木造の家」ということで、木造建築の根本的な質について問われる内容でした。様々な提案がありましたが、その中でも特に木造建築の「非完結性」は傾向として多く見られたように思います。

    最優秀となった「木工と暮らす木工ヤードのある家」は敷地中心に加工場を持つことで敷地内の住宅はもとより、街の建築物まで改修やメンテナンスの対象とし、一つの形に定まることのない、変化し続ける住環境のビジョンを示すものでした。

    「膨縮する家」もまた地域の材木置き場となりながら増減築を繰り返すことで、森林と街のエコシステムを持続可能にする提案で、定型がありません。

    他にも「非完結的」な性質を活かした作品は多く、このメンテナンスを継続することで人と建築と環境の間に、調和や愛着関係を形成する木造ならではの性質は、木造の快適性の根源的な要因であるようです。

    また一方では「サルの家・多義的な楽しい生活」や「屋根裏に包まれて」のように、不定型で非完結的なシステムというよりも、木構造ならではの「こんな空間を実現したい」という明確な意志を持った作品群も同時に見てとられ、木造建築の魅力の多様性を表しているように感じました。

    まだまだ「木造の家」の可能性は尽きないようです。来年の新しい発見や展開を期待したいと思います。

中川 エリカ中川エリカ建築設計事務所

  • 中川 エリカ
  • 例年と同様、今年も、密度のある審査会となりました。特に今年は、久しぶりに、公開審査後に懇親会が開催され、2次審査でプレゼンテーションをされた方はもちろん、佳作だった方ともお話しする機会があり、とても楽しかったです。主催者、事務局、そして応募してくださった学生の皆さんに改めて感謝を申し上げます。ありがとうございます。

    今年のテーマである「今考える快適さ」「木造」というテーマは、一見平易なように見えて、設計者としての日頃の問題意識が問われるとても奥深いテーマだと思います。応募者の皆さんが快適さを再定義しながら取り組んでくださったことが印象的でした。

    個人的には、街とのつながりを視覚的ではなくモノの循環という仕組みとして提案された黒澤さんと木嶋さんの最優秀案、建築の設計として、立体の組み立て方として、とても可能性を感じた松村さんの提案に特に興味を持ちました。

    来年もオリジナリティあふれる提案の数々に期待したいと思います。

野村 壮一郎戸建分譲設計本部 設計一部 部長

  • 野村 壮一郎
  • 今年度は「快適な木造の家」というシンプルでどっしりとしたテーマでした。日頃からRCや鉄骨造によるデザインを考えている学生さんにとってはかえって難しい課題となったのではないでしょうか。また今回の敷地は昨年と同様、私自身が実際に分譲住宅として世に送り出した事業地がサンプルとなっており、自身の分譲事業と学生の皆さんのデザインとを頭の中で比較しながら審査にあたりました。

    最優秀に輝いた【木工ヤードのある家】は複数棟の家をコモンスペースとも言える木工所で繋ぐ、所謂「街づくり」に類する提案でした。唯一無二のランドマークとなり得る【サルの家】、木造という課題に真摯に応えた【木を膨縮する櫓舎】、大きな軒下で建物が拡大する【家育て まち育て】、外国の集落を想起させる【屋根裏に包まれて】、広告宣伝的な手法でベン図を基にした【明日からは4LDK】と、いずれもすぐに詳細まで思い出せるような優れた提案でした。【木工ヤード】が最優秀となった決め手はおそらく「暮らし向き」を想起させる提案であったことだと個人的には感じています。

    10回目の開催という節目でポラス側とっても記念となる審査会でした。意欲的に応募して頂いた全ての学生さんたちに感謝申し上げます。また次回も多くの応募をお待ちしています。

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